第65回全日本ベテランテニス選手権大会 観戦記
 
片岡 洋一(昭和35年卒)
 10月7日朝、東京の深井さんと市山さんが世界ジュニアの話でメールのやり取りをして
いましたが、どうやらTVで懐かしのうつぼ公園を写していたようで、私も試合をした思い出
より善野、多久、市山、徳田・・の応援に出かけた記憶があります。
 
 大阪では世界からウインブルドンを夢見る子供たちのはじけるようなテニスを見られる
楽しみがあるようですが、名古屋では昔の名前がまだ幅を利かせワザと駆け引きでバト
ルが展開する恒例の全日本ベテランが開催されました。
今年も渡邊、佐野、石川、菅井、南後選手が出場します。この大会にはこれまで小寺、渡
邊、善野先輩が何度か日本一になっており、名古屋にあって神戸大テニス部出身は鼻高
々です。
 
 さて試合の経過ですが、70歳以上で2年前に優勝し、昨年は決勝で惜敗した渡邊・佐野
組は順当に勝ち進みましたが、石川、菅井組は準々決勝で残念ながら敗退、石川さんの
シングルも2回戦で敗れました。この年代は体力勝負だけではなく60年近く戦ってきた因
縁みたいなものも交錯し観戦していても勝利に対する執念が伝わってくる感じがします。
 65歳以上1年生の南後、猪熊(東大OB)は補欠上がりの池上、橋本に楽勝し今年もベス
ト8進出を決めました。NO.3シードの石黒、高橋が急造ペアの生川、古田にフルセットの末
敗れたが、南後さんによればどちらにも勝ったことがあるそうで、このペアにはあらためて
ワザと駆け引きのほかに相手を飲み込む芯の強さを知りました。彼らはプロであり、かっ
てのデ杯選手ですよ。
 
 10月8日、石川さん菅井さんが居残りで今日は応援組、神戸からは善野夫妻が駆けつ
けて大変賑やかでした。
渡邊、佐野先輩は颯爽と白のシャツに黒のパンツのお揃いでメインコートに登場です。
対戦する川崎、星屋組はNO.1シードですが、とても70歳以上とは思えないパンツがはち
きれそうな出で立ちで、いきなり「シングルもダブルスも神戸ばっかりや」と牽制をかけて
きました。昨年の決勝を含め3連敗しているそうですが、まさしく天敵です。今日はぜひと
もやっつけてほしい。
 
 試合開始直後に第1ゲームを先取、渡邊さんのフォアが冴え、佐野さんの足もよく動い
ており、風のごとく素早くコートを横切るポーチを決めれば、スマッシュもいいし今日はいけ
るぞとギャラリーは先の展開を期待しました。5-3から強気の攻めで一気に第1セットをと
りました。
ただ相手チームは打たれ強いというのか、3連勝している余裕でしょうか、とにかく雁行陣
で半歩でも前に出て打ちまくる戦法を終始変えずさすがの我が軍のかわすテクニックも第
2セット中盤から見破られフルセットになっても勢いは止めることができませんでした。
佐野先輩が風邪気味で体調が万全でなかったこととお聞きしましたが、両先輩の清清し
いプレーには今年も感動しました。
 
 65歳以上南後、猪熊組は準々決勝でNO.2シード渡邊、高瀬組と対戦。とにかく65歳以上
で3連勝しており、関西選手権で南後、猪熊組は負けている。試合前に70歳以上常勝の
森さんから南後選手に勝つ秘策を授けられた。
試合が始まったが得意のボレー戦に引き込んだが、ひけをとらない。ちょっと南後に硬さ
は見られたが、猪熊の憎らしいほど沈着なリードでだんだん落ち着いてきた。敵方の球捌
きは老獪でやはり森さんの言われたセンターを突くボールは鋭く第1セットは6-2で取ら
れた。
しかし南後組は諦めることを知らない、相手を飲み込むことができる強い心臓の持ち主。
ゲームはナイトゲームに突入したが、照明がつくとなんとなく雰囲気が変わってきました。
南後、猪熊は夜間照明の下で年間200日近く練習してきた経験があります。第1セットと
変わらず打たれても上げられても飄々と返していくうちに相手チームはミスをするごとに
「なんでだろう?」と首をかしげ始めました。何試合か見てきましたが、敵方が首をかしげ
だしたら南後組のペースです。
第2セット2-2からあっという間に10ゲームを連取して勝利しました。後半の48ポンド張りの
音のしないラケットから繰り出されるうスマッシュ、ポーチの鮮やかさはギャラリー席では拍
手喝采でした。渡邊会長がいみじくも「この二人はダブルスの申し子や、とにかく今年は特
にうまい」と言われましたが、足元を突くレシーブ、相手の嫌がるところに上げるロブ・・・・
シード破りして見事なベスト4進出です。
 
 10月9日、いよいよ準決勝。ここまできたら決勝戦にでてほしい。渡邊会長、石川、佐
野、善野先輩諸氏には泊り込みで応援をいただきました。
試合前に石川さんから対戦相手についてアドバイスがありましたが、適切であり、さすが
に全国を回ってよく研究しておられると感心しました。対戦する細川、久米組は四国の猛
者、怖いもの知らずでがんがん打ってくるタイプとの前評判でした。
試合開始して猪熊のサーブをいきなりレシーブエース、次もバックでのレシーブはかすりも
せずあっという間に0-1。そんな先制パンチも何処吹く風といった顔でコートチェンジして、
レシーブサイドにつくや南後の肩口からのちょん切りクロスショットが見事に決まり、お返
し。猪熊も得意のバックが冴え、ポーチも決まりイーブンにしました。四国の強豪は聞きし
に勝るショットを連発し、ネット上を激しく応酬するボレー戦でゲームは一進一退だった
が、ノーアドを2ポイント取ったのが大きく第1セットを先取。
このペースでいけば勝利間違いなしとギャラリーは安心してみていたが、南後にまさかの
フットフォルトを宣告されちょっと様子がおかしくなりました。打たれても打たれても返す
南後・猪熊のボールに対する執着にはほとほとへたりかけていましたが、「なんでだろ
う?」と首を傾げない田舎人の逞しさがありました。ひたすら打ち抜いてファイナルに持ち
込まれました。
ファイナルセットは最近早くなったと自信を持つ猪熊のサービスをいきなり豪打でレシーブ
エースをとられどうなることかと思いましたが、二人の人を食ったような終始変わらない
沈着冷静な試合運びに相手もミスを連発し自滅しました。ギャラリーもしきりに頭脳プレー
の勝利と賞賛していましたが、東大出の猪熊選手と互角にペアを組む南後選手の出身
大学を褒められているよう気がして嬉しかった。
明日はかってのデ杯選手古田(関学OB)と市山さんがインターハイ決勝で戦った生川
(早稲田OB)と対戦するが、勝ってほしい。
 
10月10日、毎年観戦記を書きながら、彼らの決勝戦での勇姿を他用で応援できなかった
のは痛恨の極みでした。夕方遅くに大会本部に試合の様子を聞きに行きましたら1回戦
から全く変わらないペースで感性豊かな試合運びで優勝されましたが、素晴らしいペアで
すねと評価され、我がことのように嬉しく天にも昇る気持ちがしました。40年来のコンビに
神様がご褒美をプレゼントされたのでしょう。
優勝の感激は本人からの優勝の弁が最も実感がありますのでこの辺で終わりますが彼ら
の優勝は後に続くものの励みになりました。
来年も創部100周年記念を前にして更なる神戸大学テニス部OBの活躍を期し名古屋で
お待ちしています。
 
2003年10月16日  片岡洋一記