テニスの強化について思うこと
昨年末に会社生活から引退して時間の余裕もできたので、今年は大学対抗テニスリーグ戦に母校の応援に出かけ、また六甲台に大学の練習を見に行く機会を持つことができた。
そして今の学生諸君がテニスに一生懸命取り組んでいる姿を見て大変うれしく思うと同時に、私自身六甲台のコートで連日汗を流していた40年以上も昔の日々が思い出されて懐かしく感じている次第である。
今の母校の学生のテニスを見てテニスは結構うまいと思う。打つ球にスピードがあるし角度のある球も打てる、ナイスショットが大変多い。それに部活に活気もあって関西大学リーグの3部に定着しているようなチームには思えない。
もっともわれわれのころは関西大学リーグに実際に参加している学校の数はせいぜい25校位だったと思うが、それが今は60校に達している。当然昔と比べて競争が激化しており、二部リーグに上がってその地位をキープすること自体なかなか大変になっていることは良く分かる。しかし練習や試合運びにもう少し工夫をすれば今のチーム力から考えてもっと上を目指せる可能性が高いと思う。
そのためにはどのようなことを考え、どのようなことをやらなければならないのか。この点について私なりに考えているところを以下に述べてみたい。
まず神戸大学に限らず今の学生諸君のテニスを見て思うことの第一は、テニスはうまいがいかにも試合運びが単純で荒っぽいということである。
先日ベルギーのテニスコーチのエイケンス氏が来日した時にその話を聞く機会があった。同氏は最近世界で大活躍中のクリスターズやエナンを育て一躍有名になったコーチである。その話で面白かったのは、さる11月のWTAチャンピオンシップでクリスターズがはじめてセレナ・ウィリアムスを破って優勝した時の話であった。エイケンス氏とクリスターズは、セレナの試合のビデオを何回も見てそのプレーを分析し、作戦を立てて試合に臨んだと言う。パソコンを駆使したその分析データを見せてもらったが、そこにはセレナのフアーストサービスおよびセカンドサービスの確率やコース、あるいはセレナがどのような局面でどのようなコースの球に対してミスが多いか等の記録が詳細に記録されていた。
元来、この様なことをいろいろ考えて試合に臨むやり方は日本のテニスのお得意技で、かつて世界で活躍した日本のプレーヤー達は皆その辺のことを必死になって考えていたように思う。たとえば1919年に日本がはじめてデ杯に参加した年に、突然決勝戦にまで駒を進め世界をあっといわせたが、そのときの立役者であった清水善三氏は後に鳥羽貞三氏に、「競技の世界に勝ち抜くには士魂商才ならぬ4CONが大切だ」と語られたと言う。因みにこの鳥羽氏は神戸大学の大先輩で、清水・熊谷時代の次の時代に日本のテニスを背負って世界に活躍された方である。
私にはこの4CONに代表されるような考え方が、体格に劣る日本人のテニスを支え、そのテニスの原型を形作ってきたように思われる。しかるに最近のテニスを見ていると、このようなことに細かい心配りをしている選手は、日本の選手の中には少なくむしろ外国の選手の中に多く見出されるような気がしてならないのである。
話はやや横にそれたが、この四CONについてよく考えることは六甲台で練習に励んでいる学生諸君にとっても意味のあることではないかと思うので、以下に四CONについて私なりに思うことをやや詳しく述べてみたい。
第一のCONは「CONCENTRATION」である。何事を成し遂げるにも集中が大切なことに間違いはないが、テニスの場合は特に長時間にわたって集中を維持することが求められる。長時間ゲームに集中するには、まずその間体に余分な力が入らずリラックスした状態にあることが必要だと思う。その為には、姿勢を真っ直ぐにし下腹に意識を集中した状態を維持すること、そして何よりも長時間走り回ってなお疲れない脚力を持っていることが大切であると思う。
またゲームに対する集中力を維持するためには、ゲーム中に一切邪念を抱かないようにしなければならない。リーグ戦の時など、ゲームに勝ちたいという気持ちが先行してしまい肝心の試合運びに集中出来なくなってしまっているような選手も見かけるが、勝利に対する過度の意識は一種の邪念であると思う。ゲームをやる以上勝つために全力を尽くして戦わねばならないが、結果である勝ち負けに捉われすぎることは、プレーへの集中を妨げると同時に、真剣勝負から来る面白さや楽しさをも奪ってしまうという意味で良くないことだと思う。
二番目のCONは「CONTROL」である。どんな強い球を打ってもそれが甘いコースにいったり浅かったりすれば相手にとっては処理のしやすい球になる。多少スピードがなくとも良いコースに打たれた球や深い球は、相手のミスを誘いあるいは相手にプレッシャーをかける事ができる。パワーに劣る日本人が活路を見出すには、このCONTROL力に頼る必要があるのではないかと思う。ただ、今のスピードあふれるゲームにおいて球を自由にCONTROLすること自体がなかなか大変である。そのためには速いスピードで長時間走り回れるフットワークやスタミナが基本的に要求されると思う。昔からテニスはアシニスだなどと言われてきたが、テニスにおける足の重要性はいくら強調してもし過ぎることはない。
学生諸君のストロークを見ていると「ゆっくり動いて早く打つ」感じの人が多い。そうではなくて「早く動いてゆっくり打つ」ようにしなくてはならない。そうしないと球を自分のものにしてCONTROLすることはできないと思う。
三番目のCONは「CONFIDENCE」である。マラソンの小出監督は高橋尚子さんのことを本に書いているが、それによると彼女は人一倍練習熱心でそのことから自分自身に絶対の自信を持っている。そのために試合に臨んでも怯むことは無く試合で持てる力を十分発揮できるのだと言う。自信はやはり日頃の密度の濃い練習(量の問題だけではなく質の問題)から来るのだと思う。
最後のCONが「CONSIDERATION」である。日本には古くから「 彼を知り己を知れば百戦してあやうからず」(孫子)ということわざが言い伝えられてきたが、これはテニスの試合にもそのまま当てはまる言葉だと思う。まず自分のテニスの特徴をよく把握しその上で相手のテニスを考えれば、そこに何らかの作戦が出てくると思う。先ほどのエイケンス氏の話などはそのよい例だと思う。学生の試合等ではその相手と初めて当たるというケースが多いと思うが、それでも試合前の練習の時に相手をよく観察すれば相手の長所や弱点くらいはわかると思う。
そして立てた作戦通りに全力を尽くして戦って負けたのであればそれは仕方がないことで、そこから次の課題を引き出してまた練習に励めばよいのだと思う。作戦も考えずに漫然と試合をして負けてしまったのであればそこから何も生まれない。
CONSIDERATIONに関してもうひとつ思うことは、練習のやり方もよく考えるべきだということである。漫然と惰性で練習するのではなく、一人一人の目標を掲げ計画的に練習プログラムをこなすべきだと思う。そのときに最近プロの世界でも多用されているドリル方式の練習は大いに役に立つと思う。
以上テニスの強化に関して私なりに思うことを書いてきたが、テニスにうまくなったり強くなったりするのは、結局本人の心がけと努力にかかっていると思う。学生時代の貴重な時間を無駄にしないためにも、真剣にテニスに取り組み、テニスを通して自己実現を計ると同時にそこからなにか大切なものを学んでほしい。
2002年12月18日
昭和35年経営学部卒業 市山 哲
関西学生テニス連盟副会長 関西テニス協会強化本部長