王座獲得60周年記念行事挨拶


 本日この席でお話し出来る機会を得た事、真に嬉しく思います。

私は昭和28年卒で60年前、当神戸大学庭球部が慶応を打ち破ってテニスの大学王座を

獲得した時のキャプテンでした。そしてこの方が時の名マネージャー生駒さんです。

この方がいなかったら王座はありませんでした。非常に出にくいところ、まげて出席いた

だきました。さてこの王座の話をし出すとあの日から60年が経ち、齢80を超えても、

なお血が騒ぎ、次から次へと止めどなく思い出が浮かんで来、話がとても長くかつ

あちこち脱線しそうなので、敢えてこの原稿を書き、脱線せぬようこれを読むことに

します。

 今の現役諸君からみれば日本の大学の王座を取るなんて、昔の日本が日清、日露戦争に

勝ったような、とんでもないことのように思うかもしれませんが、そんな事はありません。

勝つべくして勝ったとは言いませんが、その前の年には当時の我が国のデ杯チームの主力で

あった加茂兄弟、宮城を擁する早稲田と王座を争い、6-3で負けはしましたが、きわどい勝負で

した。その流れで次の年に慶応に勝って王座を獲得するのですが、当事者であったわれわれと

してはどちらへ転ぶか判らぬ5対4の激戦ではありましたが、「よし、やった」という感じで

した。そんなとんでもないことではありませんでした。後から振り返って見れば、平凡ですが、

やれば出来るな、やったなということでした。


 しかしこの勝利の重みはむしろ卒業して社会に出て冷静に過去を振り返る事が出来る時から

段々感じてきました。あれだけの事を成し遂げたという自負、快感は年を追ってずっしりと

感じるようになりました。60年経った今も感じています。我々仲間達は「あの時」と一言

言えば、それは1952年、昭和27年7月24日の事なのだという事が分かります。

あの大仕事をやり遂げ、あの感激を共にした人の和、今でいう絆は今もなおしっかりと続いて

います。 あの日から40年、45年、50年の節目、節目の年に仲間が集まって当時を思い

出して、祝賀会を続けてきました。何人かの同志が亡くなり、半世紀も過ぎたので、もう

祝勝会はやめたのですが、それではもったいない、後輩達に語り継がぬといかんということで

この催しになったということなのです。

 何という幸運に巡り合った仲間達かと思います。出来れば可愛い諸君ら後輩達に同じ思いを

させてあげたいと何時も思っているのですが、この様な経験がどれほど我々仲間の人生を

豊かにしてくれたか、それは卒業した後の人生でした。これは消え去らないのです。

テニスは個人競技と考えている人が多いかと思いますが、違います。大事なことなので良く

聞いておいてほしいのですが、特に学生テニスは団体競技なのだということです。

それだからこそ大学リーグ、大学王座決定戦などの意味があるのです。そしてテニス部の

存在意義があるのです。その点、野球、サッカーと同じです。忘れないで下さい。 

この会を催す主旨は、80歳を超えた当時のV戦士たちの祝賀会ではありません。

60年前にこんな事があった、皆さんの先輩達がこんなことをやった、努力をすればそんな

事が出来るんだという事を改めて現役の皆さんに語り継ぎ、伝承してゆきたいというのが

主旨です。そうでなければこんな貴重な経験と歴史と教訓が忘れ去られてしまうかも知れないと

おそれるからです。もう一度いいます。学校のテニスは団体競技です。そしてやれば出来るのです。大いに努力して目的を達し、貴重な経験と思い出を残す部活動を送り、大切な仲間、絆を

作って下さい。

 最後にもう一つ語り継いでおきます。孟子の言葉に「天の時は地の利に如かず、地の利は

人の和に如かず」という一節があります。我々当時の仲間はこの短い言葉に確かにその通りと

うなずくでしょう。我々の勝利の一番の勝因は「人の和」でした。

ご静聴有難うございました。



以上