「最近変だよハルカちゃん」
その1・「告白されちゃった・・・」
「行って来まーす!」
ハルカは元気に叫ぶと、デリバリーバイクのスロット全開で駐車場を出て行った。
白い三輪バイクの後部に付けられた保温ケースには、『PizzaMAX』というロゴがプリントされている。派手にドリフトしながら車道に飛び出した三輪バイクは、法定速度など完全無視でかっ飛んで行った。
バイクを運転しているのは十代後半の少女だった。
彼女の名は楠木ハルカ。今年で十七歳になる。
去年までは結構有名な女子校に居たのだが、わけあって中退しフリーター生活に入っていた。
冬の寒風などものともせず、ハルカのバイクは疾走してゆく。
その背後から漆黒の車体を持ったベントレーがするすると迫ってきた。
やけに車高の高いイギリス製の高級車である。
「げっ!またなのぉ!」
バックミラーでその姿を確認したハルカの眉が寄る。
ブッちぎりたい所だが、流石に原付ではそれもままならない。
やがて、ベントレーはハルカのバイクの横にぴたりと並んで走り始めた。
その車内には一年程前から、執拗に彼女を勧誘してくる『組織』のエージェントが乗っているのだ。
「やあ、お仕事にせいが出ますなぁ、ハルカさん」
ハルカのバイクに併走する形になったベントレーの後部座席の窓が開き、気障ったらしい男の声がかけられる。
黒い、つやつやした髪をオールバックにして、黒いサングラスをかけ、全身を黒一色にコーディネートした、三十代半ばの男が車内にいた。
黒主と名乗るその男は、ハルカを破壊工作員としてスカウトしようとしているのだ。
フリーの破壊工作員として、裏の世界ではかなり名を知られていた父親の後継者として、ハルカを彼の所属している組織に組み入れたいらしい。
ハルカの家庭はかなり複雑だった。
表向きはビデオジャーナリスト、裏の顔は、世界有数の実力を持つ、フリーの破壊工作員であった父と、表向きは専業主婦、裏の顔は、世界有数の実力を持つ、フリーのマッドサイエンティストであった母の間に生まれて、ごく普通の人生を送るのは、かなり難しいだろう。
五歳年上の姉は、母の後を継いで、立派なマッドサイエンティストになっていた。
ハルカは、とにかく平凡、平穏な生活がしたくて、家を飛び出し、フリーターをしながら一人暮らしをしている。
「そうなの!忙しいから、また十五年後ぐらいに来てね!じゃ、さよなら!」
吐き捨てるようにそう言うハルカの言葉にも全く動じずに。
「失礼ですが、時給はおいくらですかな?組織のエージェントになって頂ければ、一つのミッションで数百万から数千万の報酬が得られますよ。海外旅行もしたい放題。・・・まあ、その大半は紛争地域ですが・・・」
「あら、そう・・・あたしの時給は十億ドルなの。じゃあね〜」
ハルカのバイクは脇道に急カーブで突っ込み、更にその脇にあった細い道にドリフトしながら侵入してゆく。
ピザの宅配バイクにできるとは思えぬ車体制御だった。
でかいベントレーの車体では絶対に入って来られない細道を、バイクは疾走してゆく。
「ふっ、そのドライビングテクニック・・・惜しいですね。しかし、必ずわたしはあなたを組織に引き入れて見せますよ・・・あ、そこのコンビニに寄って・・・」
気障っぽいセリフの後に黒主は運転手にそう指示していた。
コンビニに寄った黒主が、チャーハンおにぎりとホットコーヒーを買っている頃、ハルカのバイクは目的地に到着していた。
「ちわ〜、ピザマックスです!」
ハルカの配達は、異様に早いので有名だった。
いつも元気な『マッハ美少女』(自称)ハルカは、ピザ屋の配達員の間では伝説的な存在となっていた。
普通の配達員の三人分の仕事をこなす彼女の時給は、確かに少し高かったが、それでも流石に十億ドルは貰っていない・・・っていうか、この世に時給十億ドルのバイトなど存在しない。
帰りも原付の限界を超えた走りで帰還したハルカは、その後数件の配達をこなし、午後のシフトの連中と交代していた。
「お疲れ様っす〜」
元気良く挨拶したハルカは、愛用のマウンテンバイクで一人暮らしのワンルームマンションに向かう。
二年半ほど前、父と母がそろって急死・・・どうやら実験中の爆発らしい・・・してから、まあ、色々とあって、今はこのワンルームマンションでの一人暮らしである。
ハルカはその時、全寮制の学校の寮にいたので、詳細はわからない。
姉から聞かされた話が全てだった。
地下に実験室のあった、平凡な建売住宅は跡形も無く吹き飛び、何も残らなかった。表向きは大戦中の不発弾の爆発事故という事で方が付いたらしいが・・・。
その後、姉は郊外に新たな研究室を作って母の後を継ぎ、マッドサイエンティストになった。
その後はどうやら順調に『業績』を上げ、裏の世界では結構有名になっているらしい。表向きの仕事はエロも描く少女漫画家をやっている。
妙な発明品の実験台にされるのが嫌で、ハルカは姉の所にも顔を出そうとしなかった。 ハルカの住まいは、六畳ロフト付きのワンルームである。
家具もシンプルで小奇麗に整頓されており、女の子らしい飾り付けはされていない。どちらかというと殺風景な部屋だった。
シャワーを浴び、部屋祁に着替えたハルカはパソコンを立ち上げてメールをチェックし、その脇に置いてあるファックス電話に目をやった。
ファックス兼用の留守番電話にメッセージが入っていることを示すイルミネーションが点滅している。
再生してみると、唯一の親友と呼んでもいい、御厨 早苗(みくりや さなえ)の声が入っていた。
『あの・・・急にお電話して御免なさい。携帯の番号を知らなかったので、こちらにかけました。・・・実は、折り入ってご相談したい事がございますので、いつでも結構ですから、わたくしの家までご足労いただけませんでしょうか・・・』
ハルカはその声に眉をひそめる。
早苗の声には、いつものホンワカした雰囲気が無かった。それどころか妙に憂いを含んだ様子まで感じられた。
早苗の家はかなり有名な大金持ちで、この町の郊外にちょっと洒落にならないような大邸宅を構えて住んでいる。
街の人には、『御厨御殿』と呼ばれていた。
早苗はその家の一人娘で、いわば、いいとこのお嬢さんというやつであった。
言葉遣いも妙に丁寧で、物腰も柔らかい。
ハルカが退学するまで、二人は一緒のクラスだったのだ。
どちらかといえばがさつなハルカとおっとりしたお嬢様の早苗は妙に気が合い、良くいっしょに行動していた。
両親の不幸があったときも傍にいて慰めてくれたのは早苗だった。
本当の親友・・・そう呼んで差し支えの無い存在だった。
それだけに、妙な憂いを含んだ早苗の声は、ハルカを心配させる。
ハルカは早速マウンテンバイクにまたがり、郊外にある早苗の屋敷を目指した。
ハルカの自転車の速度は、下手な原付バイクよりも速い。
筋肉のパワーが、常人とは桁違いに大きいのだ。
生まれつきそうなのか、それとも父親が時折罹ってくる妙な風土病を何度かうつされたからなのか、母親が時々食事に混ぜていたらしい新薬のせいなのか、それともその全てが影響しているのかは定かでないが、ハルカはとてつもなく強靭な肉体を持っていた。
はっきり言って、人間とは思えないパワーの持ち主なのだ。
学校の体力測定では思いっきり手加減したにもかかわらず、ぶっちぎりで全校トップだった。
黒主の所属している組織はどうやらそういうデータも入手して、余計にハルカを組織に組み入れたくなったらしい。
強靭な肉体を持った美少女エージェントが所属している組織というのは結構少ないので、かなり目立つのだ。目立つという事は、依頼が多く来るという事でもある。
色々な条件を提示してハルカをスカウトしに来るのだが、彼女には全くその気が無いのである。
ハルカは御厨家の通用口脇に自転車を停め、ドアホンのスイッチを押していた。スイッチを押すと同時に数台の監視カメラが彼女の方を向く。
「はい・・・あ、ハルカ様。早苗お嬢様が、首を長くしてお待ちですよ」
御厨家のメイド長をしている峰岸さんという女性の声がした。
幼い頃からメイドになるのが夢で独学でメイドとしての必要技能を全て修得し、高校卒業と同時に御厨家に奉公に出たという変り種である。
まだ二十代後半の年齢の筈だが、その手腕を見込まれて御厨家のメイド長をしている。
そう。御厨家にはメイドがいるのだ。それだけでも通には堪らない家庭である。
さらにそのメイドの殆どが十代後半から二十代の才色兼備の女の子だというのだから、もうそういう趣味の人にとっては天国のような所なのだが、あいにく御厨家は一般公開はしていない。
御厨家のメイド達は皆、容姿端麗で気が利き躾もいいので、当家を訪れる来客達に見初められ、玉の輿に乗ることが多く定期的に顔ぶれが変わるのも通にとっては堪えられないのだ。
しかし、くどいようだが御厨家は一般公開していないのでそういう通には知られていない。
勿体無い話である。
峰岸さんに先導され、ハルカは早苗の部屋を訪れていた。
早苗の部屋は超一流ホテルのロイヤルスイート並みの広さを持っており、非常に機能的に造られている。
「あ!・・・ハルカさん。お呼びだてしてすみません・・・」
白いシルクシャツにふわりとした紺のスカートという、とってもお嬢様ルックの服装に身を包んだ早苗が出迎えてくれた。
心なしか、やつれたようにも見える。
「早苗、どうしたの?」
座り心地の良いソファーに腰をおろし、明らかに元気の無い早苗にハルカは問い掛ける。
「・・・はい・・・実は、身体の調子が悪くて・・・」
少し潤んだ瞳でハルカを見ながら早苗は言う。
上品なハムスター(なんじゃそりゃ!?)を思わせる早苗の愛くるしい顔が憂いを含んでいた。
「お医者には行ったの?」
「・・・いいえ・・・恥ずかしくて行けないんです。知っているのは峰岸さんだけ・・・」
「恥ずかしいって・・・そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!もしもひどい病気だったらどうするの?アタシも一緒に行ってあげるから、病院に行こ!ね?」
「ハルカ様・・・早苗お嬢様のご病気は・・・非常に特殊なものなのです」
イギリス式の紅茶セット一式が載ったワゴンを押して戻って来た峰岸さんが言う。
「特殊って?」
「・・・」
早苗と峰岸さんは黙って目配せし合う。
どちらが言い出すか、アイコンタクトで伝え合っているらしい。パチパチと音がしそうな視線の応酬がしばらく続く。
「峰岸さん、お願いいたしますわ」
視線の応酬では埒があかないと思ったらしく、早苗が告げていた。
「は!?・・・わたくしが?・・・うぅ・・・判りました」
何が何やら判らずに、きょとんとしているハルカの目の前で、峰岸さんはメイド服のスカートをたくし上げる。
白いストッキングに包まれ、すらりと引き締まった脚がハルカの目の前にさらされ、更にスカートは上昇してゆく。
「え?・・・なんでそんな事するの?・・・!!!!!・・・ほぁ!?」
ハルカには、目の前のものが理解できなかった。
いや、理解はできるのだが理性がそれを拒んでいた。
「峰岸さん・・・シーメールだったの?」
上品な白いショーツを盛り上げる膨らみに視線を固定したままハルカはつぶやく。
「ちっ!違いますぅ!・・・これは・・・お嬢様と・・・同じなんです」
秀麗な顔を恥ずかしげに染めて峰岸さんは言う。
「そういうショーツなの?そんなのが流行ってるの?」
脳が半ばショートして、妙な勘違いをするハルカ。
「だ〜か〜ら〜・・・これが病気なんですぅ!」
峰岸さんは、そう叫んでいた。
「て・・・ことは・・・早苗も?」
機械仕掛けのようにゆっくりと早苗の方を向きながらハルカは問う。
「・・・」
早苗は泣きそうな顔で頷いていた。
「最初は、私が罹ったんです。で、峰岸さんに相談したら、峰岸さんまで・・・」
「相談って、伝染病なのぉ!?」
「・・・相談だけではうつらないんですぅ・・・お嬢様が、あまりにもつらそうでしたので、わたくしが・・・その・・・お手伝いを・・・」
耳まで真っ赤になってもじもじしながら、峰岸さんは言う。
スカートをたくし上げたままなので嫌でも股間のもっこりに視線が行ってしまう。
「お手伝いって?」
「・・・最初は、手で・・・何度か、お口で・・・」
カの鳴くような声で言う峰岸さんの言葉で、ハルカはその意味を察していた。
「どひぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!むぐふぅ!」
「ハルカさんっ!お静かになさって下さいませ」
羽毛がたっぷり詰まった最高級のクッションでハルカの声を封じながら早苗は言う。 かなり乱暴な行為をしているにもかかわらず、お上品な言葉遣いは変わらない。
「だ、だってぇ・・・それって・・・エロ漫画に良くあるパターンでは有りませぬか」
ようやくクッションを跳ね除け、できるだけ声のトーンを落としながら、ハルカは言う。
ピザショップのバイト控え室に散乱している雑誌の中には、そういうエロ漫画系のものもいくつか有り、暇な時にぺらぺらとめくってみた事があるハルカだった。
「そうなのですか?私は漫画を読まないから、よくわかりませんの・・・」
クッションを持ってハルカの上にのしかかったまま、早苗は言う。
「で、うつっちゃったのね?」
峰岸さんの方を見てハルカが言うと、彼女は泣きそうな顔で頷いた。
「それで、ハルカさんにご相談しようと思いまして。確か、ハルカさんのお姉さまは、天才科学者でしたわよね?」
「え?・・・いや、天才じゃなくて、それと紙一重の方なんだけど・・・」
早苗の言葉に、ハルカはちょっとアブナイ表現で答えていた。
「この身体、何とかなりませんかしら?・・・その・・・物凄く疼いてしまって、大変ですの。学校も、ここ数日は休んでおりますし」
「疼くって?痛いの?」
「いいえ・・・出したくて、堪らないんですの」
「うえぇ!もぐふぉぉぉぉ!」
叫びそうになったハルカの顔に再びクッションが押し当てられ、早苗の全体重がかけられる。
「最初は、一日三回だったのが、今では十回にまでなってしまっていますの。出す時の、天にも昇るような心地が忘れられなくて・・・それに、もう一つ、押えきれない衝動がありますの。それは・・・この迸りを、他の誰かのお身体に注ぎ込みたいという、耐えがたい衝動ですの・・・ハルカさん・・・この悩み、分かち合って下さいますわね?」
「もぐふぁぁぁぁぁぁぁ!」
ハルカは、早苗のこの言葉に、自分の身に迫る最大の危機を感じていた。
続く
次回予告:ハルカに迫る早苗と峰岸さん。
痺れ薬で身体の自由を奪われたハルカに、二人の剛直が襲い掛かる。
次回、「されちゃったの・・・」に、乞うご期待!